『大怪獣のあとしまつ』を見た感想

この記事は何?

この記事は映画『大怪獣のあとしまつ』を見た感想です。

この映画、公開当初から極めて芳しい感想やレビューの数々が散見されていて、少し気になっていたんですが「まあ、実写映画だし別に見るほどではないかな」と記憶から消し去っていました。 そんな折、こんな通知が届きます。

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やってることヤバいだろ。note のサポートってそういうシステムじゃないんだよ。 書いたものに対して金を払うんだよ。何で前払いなんだよ。

商売っ気を出したのが良くなかったですね。支払い用窓口を設置してしまうと、こういう悪用がされてしまうわけです。

と色々文句を言っていますが映画を見に行く代金を出して頂けるというのはそれがクソ映画であっても大変にありがたい話です(ほんまか?)。ありがとうございます。 『大怪獣のあとしまつ』も少なからず気になっていた映画なので、一念発起して見に行きました。

この映画、一言で言い表すと「うんことキノコとデウス・エクス・マキナ」です。 何を言ってるのか分からないと思うんですが、僕も何を言っているのか分かりません。

でも誓って言うのですが、この映画を見た人なら100人中100人が「ああ、うん、そうだね……」と賛同してくれるはずです。 こんなしょうもない映画を見ている人間を100人集める方が大変かもしれませんが。

実際映画館もガラガラで、三連休の初日夕方とかいう絶好のタイミングだったのにも関わらず、席の埋まっている数はおよそ15席程度…… その半数近くがカップルだったのですが、どうしてこの映画をカップルで見に来てしまったんだ。そんなに別れたいのか? 上映終了後、静かに爆笑する僕とは対照的に、案の定カップルたちは微妙そうな雰囲気になっていてかわいそうでした。

ということで、本記事は『大怪獣のあとしまつ』の感想記事です。 大量のネタバレとやや下品な話が含まれているので、ご了承ください。

感想

どこから話そうかな。うんこの話します?

繰り返しになりますがこの映画の構成要素は、うんこ、キノコ、デウス・エクス・マキナです。何だよこの並び。人生でこの3つを横に並べたことねぇよ。

ちなみに安心してほしいのですが、この「うんこ」というのは「クソコンテンツ」のようなモノの劣っている様を表す「クソ」ではなく、正真正銘真に「糞」や「便」の話をしています。 正真正銘の糞便の話、あまりしたくないですね。

さて、いきなり糞便の話をするのもアレなので、流石に作品のあらすじに触れておくと、以下のような話になっています。

「突如として関東に現れた怪獣は一帯に大きな被害をもたらした。しかしある日突然空から降ってきた光によって怪獣は死亡。死骸のみが残り、その”あとしまつ”に政府は頭を悩ませていた。紛糾する議論の中で、怪獣の死骸が腐敗ガスを溜め込んでおり爆発が近いことや、悪臭ガスを撒き散らすことなどが明らかになる。しかも、そのガスには未知の菌糸が含まれており触れた人間にキノコが生えてしまうという危険なものだった」

すごいな。相変わらずあらすじだけ見るとそんなにつまんなくなさそうです。

いや、まあキノコのくだりとかは既にギャグ感が隠しきれていないんですが、概ね全体の流れとしては面白くなりそうな予感があります。

しかし、この作品、そもそもあんまり面白くありません。 誰が何の思惑で動いているのか全然分からないし、意味ありげなシーンが全然なんの役割も果たしてなかったりするし、無駄にテンポ悪いし、全体的に展開が浅いです。

特に合間合間に挟まる恋愛要素というかなんちゃって濡れ場みたいなのが本当に最悪で、別に人間関係に深みを与えるでもなくただただテンポが悪くなるだけの最悪な要素でした。単純に濱田岳を色々な女優と絡ませたかっただけだろ。

こういうのを見てしまうと恋愛とか家族愛みたいなのを一切出してこなかったシンゴジラの偉さが改めて確認できますね。雰囲気だけで言えばシンゴジラっぽさもあるのに雲泥の差です。

ただ、シーンごとに切り出してみると一部のシーンはかなりちゃんとしていたりして、面白い部分もあったと思います。それに、何と言っても怪獣の死骸の後処理という題材はかなり斬新で、名作になるポテンシャルはあったと思います。まあ、そんな数少ない強みをのちに自分で捨て去るのがこの作品なのですが。

上で述べたようなもろもろを考慮した上でこの作品としての順当な評価をくだすなら、「普通につまらない」が評価です。 もし上で述べた要素しか汚点が無ければ、この作品がここまで話題にされることはなかったでしょう。

しかし、ぶっちゃけ本作の問題はそこではありません。 普通につまらないだけでなく、異常にしょうもない部分があるからここまで酷評されているんですね。

まず1つ目が、冒頭に述べた「うんこ」。 これは本当にしょうもなくて、笑顔を通り超して真顔になっていました。

怪獣の腐敗ガスが周囲に悪臭を撒き散らすのですが、この臭いが「うんこ(原文ママ)」なのか「ゲロ(原文ママ)」なのかを内閣府大臣たちが長々と、本当に長々とくだらなく議論し続けます。 西田敏行を含む大御所俳優たちがこんなくだらない議論を長々とやっているシーンは一周回って逆に迫力がありましたね。

このシーン本当に全てがつまらなくて、こんな尺取ってやることじゃないだろと思って唖然としていました。 「ひょっとしてギャグで言っているのか?」とも思ったんですが、ギャグとしてはあまりにつまらないので多分真面目にやってるんだと思います。

逆にこれだけどうでもいい話を長尺取ってやっているので、「実はシュールギャグに見せかけた重要な伏線なのでは?」と疑って一瞬感心しかけたのですが、最後まで見ても純粋にどうでもいい話でした。 感心を返せよクソが(うんこだけに)。

そして2つ目が、「キノコ」です。 これも概ね「うんこ」と同じで非常にしょうもないシーンが続いていたのですが、このキノコのくだりが言わば作品のスタンスを決定付けたと言っても過言ではありません。

一見無害だと思われていた怪獣の体液・ガスが未知の菌糸を含んでおり、それが土壌はおろか人体にまでキノコを生やす強い繁殖力を持つものだということが明らかになります。 それまで「死骸を観光資源に〜」とかなんとか言っていた大臣たちも、流石にこの事実を発見してからはそうも言ってられず慌てます。

甘く見ていた概算が崩れ去る、というシーンは絶望感もあり物語をクライマックスへ持っていく強い原動力になるはずなのですが、本作ではそうはなりませんでした。

何故か全身にキノコが生え、陰部だけが黒いモザイクで塗りつぶされた男の映像が流れ、登場人物たちが「股間に生えているキノコだけ何故種類が違うんだ?」と素っ頓狂な下ネタを言い始めます。

は?

菌糸に冒され全身がキノコまみれになるやつが出てくる←わかる

陰部だけが黒いモザイクで塗り潰されている←ギリわかる

登場人物たちが下ネタを言い出す←分かんないよ!!!!!!!

このシーン、本当に最悪すぎてマジで笑顔になっていました。 嘘でしょ。これだけシナリオで使えそうな要素を、その場のクソつまんないギャグとしてただただ消費したって言うんですか?

このあたりで分かったんですが、どうやら監督はこの作品をギャグ映画として作ったつもりだったっぽいんですよね。 いや、だとしたらギャグがつまらなすぎるんですが、でも、これを真面目な映画として作ってたら流石におかしい。どう考えてもおかしいですよ。

人体にキノコが生えるというまあまあショッキングな映像もギャグとして消費され、このあたりから「一体オレは何のためにこの作品を見ているんだ?」と自問自答をする時間が増えていきます。

そんなこんなで、3つ目の問題要素、「デウス・エクス・マキナ」。 オタクくん大好き、デウス・エクス・マキナです。機械仕掛けの神とも呼ばれ、演劇などの作品において終盤に出てくる全てを解決してくれる存在のことを指します。

もうお分かりですね。

はい。この作品は最後に出てきた「デウス・エクス・マキナ原文ママ)」によって全てが解決されます。

大怪獣の死骸をどのように後始末するのか、そんな斬新な切り口が売りのこの映画。 見に来た人たちはその方法を楽しみに来ていたはずです。 しかし、本作では怪獣を処理する様々な試みが全て失敗したのち、主人公が謎の光に包まれて謎パワーで怪獣を空高くまで運んでいくことで始末します。

ええええええええ。主人公光り出したんだけどなんか怪獣持ち上げてるんだけどえええええええ。

笑うだろこんなの。今までの色々なくだりは何だったんだよ。 ダムを意図的に決壊させて河川上の怪獣を押し流すくだりとか、謎の博士が出てきてガスを成層圏まで噴出させるメソッドを提案してきたくだりとか、そいつらですら若干ご都合解決っぽさあるのに、まさか最後の1分で主人公が謎パワーで怪獣を空高くに運搬するとか考えられるか?

しかもダムを爆破するときにヒロインの兄貴(オダギリジョー)が爆破を担当するのですが、何かよく分からん理由でダムの水に沈んでいき死にます。 このシーン、見ているときはそこまで違和感無かったんですが、最後まで見てしまうと主人公が最初っから謎パワーを使って怪獣を運搬していれば死ななかったのでは?となりました。

主人公、最後の最後で何かに覚醒したとかではなく、どうやら映画の冒頭時点から既に謎パワーを自由に使えたっぽいんですよね。 マジでヒロインの兄貴見殺しにしただけじゃん。 主人公が久々に再会したときに「何であのとき妹の前から消えたんだよ!!」って殴られてたから、もしかして根に持ってたのか?

しかも、謎パワーの直前のシーンで、謎の博士の提案で、毒ガスを成層圏に打ち上げるためには人力で怪獣の肉体に噴出杭を打ち込む必要があり、主人公は一人で怪獣の身体をよじ登り杭を打ち込んでいました。このシーンも主人公が謎のパワーを使えば不要なはずで、実際そのあと怪獣の身体に小型ミサイルが撃ち込まれ主人公の努力は無に帰します。すべてが何だったんだよマジで。

こんな結末で急に殴られたら誰だってぶちギレてしまうと思うのですが、実は僕はこの展開を予見していました。 許せない話なんですが、冒頭からちょこちょこ「主人公が謎パワー持ってるんちゃう?」みたいな伏線が張られていたんですよね。かなり露骨に。

というか、そもそも本作は冒頭で登場人物が脈絡なく「デウス・エクス・マキナ」という言葉の説明を始めるんですよね。 冷静に考えて欲しいんですが、冒頭でデウス・エクス・マキナの説明を差し込む作品、どう考えてもデウス・エクス・マキナによって作品を終わらせる気満々じゃないですか?むしろちゃんとデウス・エクス・マキナで解決しちゃったんで感心したまであります。 いや、説明したから出してよいという話ではないんですけどね。

思い返せば、主人公が上官とか銃持った兵士相手にめちゃくちゃイキり散らかしてたのも、この謎パワーがあったからなんですね。 急に謎パワーもらったからってイキり散らかしてたのかっこ悪すぎるだろ。なろう主人公かよ。

ということで、本作品のあとしまつはデウス・エクス・マキナが行ってくれました。めでたしめでたし。オレの2時間とまざっちさんの1900円を返せ。

まあ、最後のシーンは予想できてても面白すぎて爆笑したので今回は許しましょう。

まとめ

本作品は鑑賞中も「今この時間は何なんだ?」と思わせてくれるし、鑑賞後にも「今までの時間は何だったんだよマジで」と思わせてくれる作品でした。 系統としては「ドラゴンクエスト YOUR STORY」と同じで、最後の最後に瞬間風速を上げてそれまでの話を全部無に帰すタイプの作品です。

これは推測なんですが、たぶん監督はギャグとしてこの作品を作ったんですよね。真面目に。 ただ、ギャグがつまらなすぎるのと、作風がギャグっぽくないせいでこんなことになってしまったのだと思います。 観客の見たかったものと監督の作りたかったものが食い違ってしまったという悲しい怪獣のような作品でした。

どうやら、本作は続編作成が決まっている……?らしいです。ほんとに言ってる?あんな終わり方しといて?

とはいえ続編があるというのは一般に喜ばしいことです。 世間を賑わせているこの問題作のあとしまつを続編でどのように付けてくれるのか、今から楽しみです。

まあ、現実には問題のあとしまつを付けてくれる、デウス・エクス・マキナはいないんですけどね。