二ノ国を見た感想

この記事は何

先ほど、映画館で『二ノ国』を観てきました。 あまり見に行くつもりはなかったのですが、研究室の同期に「始終笑顔になれる作品。本当にお勧めしたい」と言われたので、仕方なく1500円と2時間をどぶに捨ててきました。

本記事では、二ノ国の感想をつらつらと書き連ねたいと思います。 あまり構成など考えていない散文なので、読みにくい部分などはご容赦頂けると幸いです。 また、ネタバレ無しで語るのは難しいので、最初から最後までネタバレを含みます。 ネタバレをご容赦頂ける方のみお進みください。

感想

えー、どこから語ればいいんですかね。 この作品、研究室の同期が言っていたように「始終笑顔になれる作品*1」なので、本当にどこから語ればいいか分かりません。

もし二ノ国という映画を一文で言い表すなら、「なろうの日間ランキング34位の作品を映像化しました~ジブリ風味~」といったところでしょうか。*2 ちなみにこの比喩表現は褒めています。なろうの日間ランキングに乗るには、類まれなる投稿頻度が必要で本当に大変なことなので。

まず、二ノ国を見るにあたって周囲の人間の評価を軽く見たのですが、まあ惨憺たるものでした。酷評に次ぐ酷評。誰一人褒めている人間を見かけない。 僕は恐怖しました。これから僕が見に行く作品はとんでもなくつまらない、おぞましい作品なのではないかと。

しかし、蓋を開けてみればそうでもなかったです。 僕は完全に『異世界チート魔術師』を2時間見させられることを覚悟していたのですが、出てきたのは劇場版『百錬の覇王と聖約の戦乙女』だったみたいな感じでした。 分かりにくければ、砂を食べに行ったら雑草を食べさせられたぐらいに考えてください。すごい、ちゃんとした食べ物です。

実際、この作品は言われるほど酷評されるものではなかったと思っています。

雑な伏線の張り方・回収、登場人物の言動の意味不明さ、不要な設定や登場人物、唐突な謎シーンなど突っ込みどころは多々あれど、「いや、この作品の原作なろうだからね?」と言われれば許されたと思います。しかし、残念ながらこの作品は許されません。原作がなろうではないからです。

もしこの作品の原作がなろうだったなら許されていただろうと思うと胸が詰まります。 いや、本当にこれなろう作品なんですって。信じてくださいよ。一ノ国では違うかもしれないけど、二ノ国ではなろう作品だったんですって。

実際、僕はなろう作品として二ノ国という映画をとても楽しく見ることができました。いや、本当に研究室同期の言う通り「始終笑顔になれる」作品だったと思います。実際、2時間笑顔だったせいで帰り道でも口角が上がったままで大変でした。

はい。全体の感想はこれぐらいにして要素要素の感想を述べていきたいと思います。

作画

まず、作画です。作画は全体的に良かったと思います。

僕はクソアニメを見るときに必ず登場人物の指の本数を見るようにしているのですが、2時間近い映像の中で少なくとも僕の確認した範囲では、全員ちゃんと指が5本ずつあって良かったと思います。引きの画面で登場人物の作画が若干ぐずぐずだった以外は全体的に崩れておらず、よく動いていました。そこいらのなろう作品よりは遥かに高品質でした。

ちなみに、僕の見間違えでなければ1か所だけ作画ミスがありました。作中で、アーシャ姫のお腹の傷を治すために癒しの泉みたいなところに行きます。癒しの泉で謎ダンスを踊ると、お腹にあった傷痕がみるみる消えて、元の何も無いきれいな肌に戻っていきます。しかし、そのあとの描写で、1秒前後写ったアーシャ姫の腹部にまだ傷が残っていました。最初は伏線かなとも思いましたが、そのあと回収もされなかったので、恐らく作画ミスです。

まあ、そんな感じで、1つ作画ミスを見つけた以外は本当に気になる箇所も無くバッチリでした。ここは褒めてあげたいと思います。

音響

BGMやSEはかなり良かったです。特に僕が気になるところもありませんでした。 俳優・声優の演技に関しては、俳優の人も頑張ってはいるんですが、本職の声優と並べるのはかなりかわいそうだなと思って見ていました。 子供のお遊戯会にベテラン俳優が混じって演技しているみたいな感じで、微笑ましかったです。

お話

ここが最も語る部分が多いので最後に持ってきました。

どこから語ればいいのか分からないんですが、まず、二大主人公のユウとハルのどちらもが行動原理がガバガバ意味不明で本当に良かったと思います。

ハル「うおおお! オレはコトナ(ヒロイン)を助けるんじゃい!」←分かる

ハル「だからアーシャ姫を殺す」←分からない

ハル「邪魔するやつも全員切る」←分からない

という感じで、映画館で笑ってしまいました。 一応作中で、「一ノ国と二ノ国では命の総和上限が決まっている。そのため、二ノ国で死ぬはずだったアーシャ姫を助けたら、表裏一体の存在である一ノ国のコトナが死ぬ羽目になる」みたいな嘘の説明があり、「せや! 逆にアーシャ姫殺せばコトナ助かるやんけ!」みたいな流れなのですが、「いや、ちょっと考えたらおかしいって分かるやろがい」という気持ちになりました。

たぶん、「ユウとハルを敵対させて戦わせたい!」みたいな「やりたい展開」が最初にあったんでしょうね。それにキャラクターの言動を無理やりあわせるからこういうことになったんだと思います。この作品は全体的にその傾向が強かったような気がします。気持ちは分かります。最初にやりたい展開があって、後からキャラクターが追従するようにしたくなるんですよね。でも、それをやるとキャラクターが「死ぬ」のでちゃんと「このキャラクターはこういうときにこういう行動をとるか? 物語の都合に束縛されていないか?」ということを逐一確認する必要があると思うんです。この作品はそういう部分を踏み倒して、「うるせえ!!! 俺のやりたい展開はこれだ!!(どん)」という男らしさを感じて非常に良かったと思います。

しかも、この展開のあとで、ハルが自分の間違いに気づき「やっぱりな! おかしいと思ってたんだ!」って言いだしたときは本当に爆笑をこらえていました。掌大回転オブザイヤー2019にノミネートしましたね。

加えて、ラスボスのガバラス君の心理状態も結構ガバガバで良かったです。聞いてもないのになんか急に「俺はぁ! お前らにこんな仕打ちをされたぁ!! 屈辱だぁあ!!」とか言い出したから復讐が目的なのかなと思ったら、「ふん、私が復讐などという単純な感情で動いているとでも?」みたいなこと言いだして、「いや、情緒不安定かこいつ」ってなりました。

他にもガバラス君関連で気になったとことをざっくり箇条書きで書きたいと思います。

  • 「姫には防御魔術がかかっているから直接殺すことはできない」とか言っておきながら普通に殺そうとする。
  • 物語序盤から姫を殺そうとしているので、姫を殺すことが目的かと思ったら、どうやら姫の持つ膨大な魔力(後出しで明かされる)が欲しいらしい。いや、殺したら魔力奪えなくない? ってか、魔力奪って何したかったん?
  • 防御魔術を知っていながら、姫に呪いの剣を突き刺して防御魔術に呪い返しを食らう。いや、バカか?
  • 姫は自身の防御魔術を貫通する魔法の短剣を持っていた。出会って数日の主人公が見せてもらえるぐらいガバガバ管理なのに、王の腹心レベルになっていながらその存在を知らない。
  • 騎士隊長をワンパンできるし、変身すれば空を飛んで城の屋根をぶち壊して姫をさらえるのに、なぜか潜入して機を窺がっていた。

いや、謎しかないですね。 たぶん、「王の腹心だったやつは、何と敵の大ボスでした!」展開をやりたいというのが先にあって、そのあとにキャラクターとか設定を練ったんでしょうね。あまりの酷さにガバラス君が喋るたびに笑顔になっていました。人を笑顔にしてくれる素晴らしいキャラクターでした。南無。

閑話休題

書きたいことがいっぱいあるので、ここからは箇条書きで行きたいと思います。

  • 全体的に登場人物が無能なのも、なろうテイストで良かったと思います。ガバラス君はいさ知らず、王様も普通に無能でした。不審者である主人公を姫の護衛役にすることをOKしたり、腹心(ガバラス君)の助言をかたっぱしから鵜呑みにしまくるシーンとかも「ああ、なろうだなぁ」という感じでした。最後に主人公が王位を継承(?)していたのも、「足が不自由な俺が異世界で王になれたワケ」というタイトルでなろうにありそうな展開でしたね。

  • 不要な登場人物も多かったなと思いました。特に序盤の酒場にいた面々です。その後大した活躍も出番もなくちょろっと出て終わったので、何がしたかったのかなという感じでした。たぶん、異世界感を出したかったんでしょうね。そもそも、異世界転移して早々右も左も分からずに酒場に行く主人公たちの行動原理も分からなかったので、恐らく「異世界感を醸し出しつつ、拠点を確保する」というイベント消化のための場所と人だったのでしょう。

  • 個人的には癒しの泉で水浴びするシーンで笑ってしまいました。なんかお清めするみたいな雰囲気だったので、こう静かに水浴びするのかなと思ったら御付のゆるキャラが「姫! 清めのダンスを踊るにゃも!」みたいなことを言い出して、「!?」ってなりました。一瞬で冷静さを取り戻し、「まあ、日本舞踊みたいな感じで静かな舞を踊るのかな」と思っていたら、急に姫様が宙に浮き始めて水面上をスケートダンスしだしたので必死に笑いをこらえていました。「いや、水浴びしろよ。何水面上で踊ってんだよ」みたいなツッコミをこらえつつ、1分近いダンスシーンを観させ続けられました。

  • ユウが足不自由の必要性あった? そもそもユウが二ノ国の住人なら、一ノ国で足不自由なら二ノ国でも足不自由じゃない? ユウの足不自由設定、なろう小説における「元の世界ではいじめられっ子」設定と同質なんですよね。

さてはて、そんなこんなで物語も終盤。ラスボスも倒し、「もう流石に大丈夫だろう」と思っていたらそんなことはありませんでした。さすが僕を笑顔にし続けてきた二ノ国。序盤中盤だけでなく、終盤にも隙はありませんでした。

最後の最後でユウとハルが同一人物(というかユウが二ノ国におけるハル)であることが暴露されます。ハルは最後に、「実はユウが二ノ国の住人で小さいころにこちらに飛ばされてきており、自身と同一人物であること」に気づくのですが、本当に神がかり的理解力を発揮していました。いや、伏線は無くはなかったんですが、それは視聴者から見た伏線であって、ハルからするとそれに気づく要素一切無かったと思うんですよね。急に天啓でも降りたんですかね。最後のシーンでハルはなぜかその真実に気づき、「今は以前よりもお前と傍にいる気がするよ――――」と感傷にひたります。うーん、この。君30分前ぐらいにそいつのこと殺そうとしてたからね。自分の彼女助けるために色んな人殺してたからね。

まとめ

何度も言いますが、本当にこの作品はなろう作品なんですよね。全体的に登場人物の心理や言動が意味不明な部分とか、展開ありきで強引に推し進める部分とか、王様や騎士隊長みたいな重役の人が軒並み無能なところとか。

だから、なろう小説の映像作品として見れば楽しめると思います。間違いなく『異世界チート魔術師』や『デスマーチから始まる異世界狂想曲』よりは面白かったと思います。なので、もう1回見たいとは思いません。

*1:「突っ込みどころしかない作品」の意。

*2:「なろう」というのは「小説家になろう」という小説投稿サイトを指します。